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2012年総選挙 不利益分配の痛み語れ
(共同通信 2012年12月17日)

 自民党が勝利した今回の総選挙では、原発、災害、防衛について目前に危機が迫っているかのような発言が多く聞かれた。それに比べて、日本の財政赤字を将来的な脅威あるいは世代間格差ととらえた発言は、きわめて少なかったように思う。

 選挙戦では、災害対策が目的ならば「国債増発はやむなし」といった空気が支配的であった。経済財政政策についても、威勢のいい財政出動の話が幅をきかせ、政治的なムダ遣いを糾弾する意見は大きなものとはならなかった。

 財政健全化の必要を思えば、既得権益の排除(不・利益分配)や増税などの負担増(不利益・分配)について、もっと声高に語る政治家が出てきてもよかった。来年には消費税率が上がる。政権を担う可能性の高い政党に対しては、国家の健全な運営についてどういう見通しをもっているのか、国民もマスメディアももっと問いかけるべきだったのではないか。

 近年の日本政治は、じつはこの「不利益分配」をめぐって動いてきた。小泉政権は、自民党の分裂という犠牲を払っても、道路族や郵政族といった族議員と対峙し、既得権益の排除に取り組んだ。野田政権は、民主党の分裂を覚悟のうえで、消費税増税を決断し実現させた。国の借金が増える中、選挙では表に出にくい現代日本の構造的な政治課題は「不利益分配」をどう進めるか、なのである。

 にもかかわらず、今回の総選挙では、そうした「痛みを伴う改革」の話は息をひそめた。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加の是非は、製造業と農業のどちらに不利益を分配すべきかの議論になりかねない。そのためか、主要政党はいずれも留保付きの不明瞭な見解を示しただけで、いかにも争点にしたくないように見えた。

 また、「不利益分配」という課題に取り組むには、制度疲労を起こしている現在の政治制度や行政機構の見直しも必要となる。だが、今回の総選挙では、この点についての議論も深まらなかった。第三極の一部に官僚主導に対する批判が見られたものの、制度についての議論は大半が憲法改正に向けられた。自民党が長らく取り組んできた「行革」も、民主党が真っ先にやろうとした「政治主導」も、言葉じたい、ほとんど使われなかった。増税に踏み切った以上、政府規模の適正化も必要となるはずだが、「大きな政府」の是正や抑制は争点にならなかった。

 総選挙で自民党は大勝した。だが、それは前回の民主党大勝と同様、政権政党に対する不満に後押しされたものでもある。二大政党制は「AがダメならB」、「BがダメならA」という消去法的選択をうながしやすい。この欠陥が自民党大勝利の背景にあることを忘れてはならないだろう。

 ゆえに、自民党の掲げた政策が有権者からことごとく支持されたといった受け止め方は、適切ではない。新政権には、この点をぜひ自覚してもらいたい。そして、公共事業を通じて利益分配政治を「取り戻す」というのであれば、既得権益の排除や国民負担の増加といった「不利益分配の痛み」についても、改めて考えを聞かせてほしい。