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「初のネット選挙運動」
(産経新聞 2013年7月25日)

 参院選が終わり,初のネット選挙運動を振り返る時期になりました。今回のネット選挙の印象を産経新聞(大阪版・論壇)に寄稿しましたので,概略をここにもアップします。

 ねじれ解消や低投票率が想定内となる中、今回の参院選ではインターネットを利用した選挙運動の解禁が大きな話題となった。1票でも欲しい政党・候補者は「わずかでも効果があれば」と対応に追われ、新しもの好きのマスメディアは「大きな効果」を示唆するエピソードを探し求めた。

 一方、有権者の多くは、ネット上に日々流された政党や候補者の主張をあまり読むこともなく、かといって民主党政権下で「嘘つき文書」のレッテルを貼られてしまったマニフェストを入手して各党の政策を比較することもほとんどしなかった。むしろ、安倍政権の実績とアベノミクスの評価を中心軸に、「一強多弱」となった日本の政党政治の将来にも思いを馳せながら、与党を信任すべきか、どの野党を残すべきか、などと思案し、投票先を決めていったように見えた。

 参院選は都道府県単位の選挙区選挙と全国一区の比例区選挙で実施されている。前者の約3分の2は1人区なので大政党に有利であり、後者では全国規模で票を動員できる職業団体などの政治力が物を言う。初のネット選挙が結果を左右するには、そもそも制度的制約が大きすぎた。

 たしかに一部には、東京選挙区の山本太郎氏のように、ネット上での情報発信が当選に大きく貢献したと思われる候補者も出た。だが、それはごく一部であり、選挙の大勢に影響を与えるレベルには遠く及ばなかった。

 とはいえ、今回の参院選では、今後のネット選挙を考える上でのいくつかの「兆し」が感じ取られた。

 第一に、今回、ネットの力を有効活用して当選した政治家が出た以上、政党・候補者は、業界団体や労働組合が票をまとめる選挙運動とは別に、無党派層を意識したネット選挙運動に力を入れなければならなくなった。今後は、ネット上に作り出されるムードが議員の当落に影響するケースも増えていくだろうし、それに期待する「諸派系候補」の立候補も続出するだろう。特に、少数意見を尊重する選挙制度、すなわち1つの選挙区から多数の議員を選出する制度(参院選の東京都選挙区や地方議会議員選挙など)では、ネット選挙運動の影響がしだいに顕著になっていくにちがいない。

 第二に、ネット選挙運動は、政治家が政策宣伝のために利用する「新時代の選挙公報」のようなものではなく、むしろ政治家と有権者との直接的な感情の交流をうながす「新時代の街頭活動」と受け止めるべきことがわかった。ただし、通常の街頭活動では、演説やパフォーマンスで聴衆の心をつかもうとする政治家を前に、多くの有権者は見物し拍手する存在であるが、ネット上の選挙活動では政治家の発言をきっかけに有権者どうしが絶賛や侮蔑に満ちた感情論をぶつけ合っていた。そして、支持者は「拡散」を呼びかけ、反対者は「落選させよ」の書き込みをした。もともとネットは「炎上」をもたらしかねないメディアである。選挙は「祭」の要素を持つが、それに伴う熱狂は、選挙公報、マニフェスト、新聞報道などといった他のメディアよりも、明らかにネット上のほうが広がりやすい。政党・候補者は、こうしたネットの特徴を踏まえ、発言や振る舞いに気を遣う必要が出てきた。

 第三に、ネット選挙運動は若者の政治への関心を高めると期待されたが、メールの規制など煩雑なルールがあり、参加をためらわせる面も見られた。また、選挙は政治教育の絶好の材料であるにもかかわらず、今回、未成年者は「ネット選挙にかかわるな」の注意ばかりを受けることとなった。たしかに、未成年者の選挙運動は違法である。それゆえ、ネットの利用について何が公職選挙法違反になるのか、総務省からは詳細かつ具体的な違反事例が示され、それはテレビのワイドショーなどでも紹介された。これにより、親たちは自分の子どもに罰金刑が科せられるのではと心配し、学校現場では違反者が出ないよう注意喚起が繰り返された。シチズンシップ教育の重要性が指摘されるなか、若者たちの政治的意思表明に過度の制約を課すことは望ましくない。若年層の政治的フラストレーションが選挙以外の手段で表明されることのないよう、今後、ネット選挙の規制については現実を踏まえた見直しが求められることとなろう。