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エルマウ・サミットについて

ブログより

エルマウ・サミットの意義(国際社会問題) 

 サミットという国際メカニズムの重要性は,主要国が協調してグローバル・ガバナンスに寄与する点にある。その対象は政治,経済だけでなく,地球温暖化対策や感染症対策といった国際社会問題にまで及ぶ。

 気候変動について,今回のエルマウ・サミットは,今年12月にパリで開かれるCOP21の成功に向けて「強い決意」を表明した。日本も安倍首相が「2030年までに2013年比で26%の削減」をサミットで各国首脳に説明した。サミット全体では,排出削減の基準年を初めて示し,世界全体で2050年に2010年比で40-70%削減を目標とすることを宣言した。2008年の洞爺湖サミットを含め,気候変動については2007~2009年のサミットで政策協調が大きく進展したが,それ以来の成果であると言ってよい。

 保健分野での途上国支援では,エボラ出血熱,薬剤耐性,熱帯病などについて対応策が宣言された。感染症対策はサミットで日本が大いに貢献してきた分野である。2000年の沖縄サミットでは主要テーマにもなった。

 じつは今回のエルマウ・サミットで,私が着目したのは,WHOの機能強化を図るとした点である。サミットは「司令塔」であり,実働部隊を持たない。ゆえに,国連や関連機関の活性化を図ることが重要になる。1990年代半ば,サミットは国際機関に次々と具体的な要望を突きつけ,機能強化を図った。要求は権限の重複是正や経費削減にまで及んだ。今回のWHOの機能強化も,サミットならではの指導力の発揮なのである。 

エルマウ・サミットの意義(経済) 

 対中ロの外交ばかりが話題になったが,エルマウ・サミットの真の意義は,参加国間の経済政策の調整とグローバルな社会問題に対する取組の指針を示したことにある。あまり報道されていないが,事件やバトルを好むニュースの世界では,首脳がみんなで仲良く前向きなことを決めた話は,きっとおもしろくないのだろう。

 ここでは,まず経済政策での協調について整理しておきたい。貿易では,メガEPAの促進がうながされた。環太平洋パートナーシップ(TPP),環大西洋パートナーシップ(TTIP),そして日EUのEPAが揃えば,サミット参加国は巨大な自由貿易圏のネットワークに包まれる。「本年末」という時間軸も示されたことは軽視すべきではない。ちなみに,WTOのドーハラウンドの妥結や世界レベルでの貿易障壁の削減についてはG20にゆだねた。「投げた」という表現のほうが正しいのかもしれないが。

 また,エルマウでは,2013年のロック・アーン・サミットに続いて,租税のがれの問題,シャドーバンキングの問題,世界的なサプライ・チェーンにおける労働者の人権問題なども話し合われた。OECDやILOのトップもサミットに呼ばれたが,具体的取組について意見調整するためなのだろう。

 メルケルさんが議長であったこともあり,女性起業家への支援が宣言に盛り込まれ,付属文書でG7が守るべき「原則」が示された。9月には議長国ドイツで関連フォーラムも開催される。宣言には,来年の議長国である日本でも「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム」が開催されるとの言及があったが,これまたメディアで紹介されることはまれだった。

 最後になったが,世界経済の状況については,明るいメッセージが宣言に盛り込まれた。ようするに,世界経済は回復し,主要国の成長も強まっている。それでもまだ潜在成長力を下回っているから,もっと取組を強化しよう,という話がメインだった。課題の指摘ももちろんあるのだが,あまり深刻な感じではなかった。

 日本への注文もなかった。当面はアベノミクスでけっこう,ということなのだろう。 

エルマウ・サミットの意義(安倍外交) 

 G7サミットが終わった。安倍首相は、中ロに対するG7のスタンスを日本のプラスのかたちでまとめあげた。この外交に関して言えば、合格点と言ってよい。

 中国の海洋進出については、事態が悪化したことも手伝って、厳しい口調が宣言文に書き込まれた。中国を名指しはしなかったものの、首脳宣言の文言は、「大規模な埋め立てを含む、現状の変更を試みるいかなる一方的行動にも強く反対する」となった。4月の外相会合のときは「大規模埋め立てを含む、現状を変更し緊張を高めるあらゆる一方的行動を懸念している」となっていた。「懸念」を「強く反対」にまでもっていき、G7は「中国による埋め立てには反対」という姿勢を世界に示したのだから、議論をリードした安倍首相は東南アジア諸国、特にサミット直前に日本に泣きついてきたフィリピンなどから高く評価されるはずだ。

 中国主導のAIIBについても、その透明性に疑問があることを参加予定の欧州諸国に伝えた。結果、AIIBに関する情報は、日米もシェアさせてもらうことになった。宣言文にはこうした交渉結果は入っていないが、「質の高いインフラ投資」という意味深長な言葉は入った。

 安倍首相はG7に向かう途中でウクライナに立ち寄った。G7に強調することを明確に示したものである。だが、その一方で記者会見ではロシアとの対話の重要性も語った。中国とちがって、今のロシアは軍事的な意味で「潜在的脅威」とは言えない。欧米とロシアとを仲介するつもりなのか、と思わせるくらいの踏み込んだ発言だったが、実際にそうした役割を演じることができれば、国際的にも高く評価されるはずだ。

 来年のサミットに向けた安倍外交では、対ロ関係の改善が試金石になるのだろう。

エルマウ・サミット展望 

 エルマウ・サミットの政治討議では,IS対策を含む中東問題のほか,ロシアがサミットから離脱する原因となったウクライナ問題と,中国の横暴な振る舞いが目立つ南シナ海問題が話し合われる。おそらく,ロシアに対しては制裁の継続とウクライナへの支援が,中国については不法な現状変更への一般的な懸念が示されるものと思われる。外相会合の宣言を見る限り,中国を名指しで批判することはなさそうだ。

 言うまでもないことだろうが,たった1回のサミットで,中ロがもたらす問題が解決するわけはない。議論に当事者が含まれていないのだから当然である。では,議論に招けば解決するのかと言えば,そんなわけもない。ロシアや中国を話し合いで簡単に抑えることができるのであれば,国連の場でとっくに問題は解決しているはずだ。

 その国連は,中ロが安保理の拒否権を握っている以上,なにもできない。国際法に違反した国に経済制裁などを科そうとしても,いやもっと初歩的な「非難決議」を採択しようとしても,中ロに拒否されるだけだ。つまり,中ロが引き起こす問題について,国連はまったく無能なのである。

 ならば,中ロの独善を抑制させる政治的手法は何か? やはりG7サミットが中心となって,各国に働きかけ,中ロに自己の行動が得策でないことを思い知らせるほかはない。独善的な振る舞いは,独善的な政権からもたらされる。民主的で人権を尊重するような国になるように,中ロの世論に訴えることも大切だ。

 G7からの批判など,中ロは気にしない,という考え方はまちがっている。中ロ以外の新興国は,むしろG7に近い政治的価値観を持っている。インドもブラジルも,中国あるいはロシアと一蓮托生の道を選ぶとは思えない。今回のサミットには中東アフリカから6人の首脳が参加する。国連やアフリカ連合など7つの国際機関のリーダーもやって来る。かれらもサミットとともにある。そういう場で問題児扱いされることは,両国の国際的活動に影響するにちがいない。

 中国は,北京で今月3日と4日に開かれたASEANとの事務レベル会議で,南シナ海における行動規範の策定促進を約束して見せた。7日と8日のG7の前に,少しでも中国批判を弱めようとの狙いがあるのだろう。逆を言えば,それだけG7で出される非難は脅威なのである。

 サミットには,無謀な振る舞いを多少なりとも抑制させる力がある。もし問題を起こしている国が話し合いに前向きになれば,サミットは敵対するリーダーどうしが膝詰め談判する場を設けることもできる。どちらも国連ができないことだ。ならば,サミットには存在意義がある。大きな進展がなかったからと言って,意味がないと結論づけるのは誤りである。なんの問題であっても,じわじわ効いてくるのが,サミットの指針の効果というものなのだ。